大判例

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東京高等裁判所 平成3年(ラ)124号 決定

主文

原審判を取り消す。

本件を千葉家庭裁判所に差し戻す。

理由

一抗告人は、主文同旨の裁判を求めた。抗告の理由は別紙のとおりである。

二当裁判所の判断

原審判は、遺産分割の方法及びその前提事実についての審理、検討が十分になされないまま今日に至っていることから、事件の早期解決を当事者も希望しているとして、被相続人の遺産につき競売による換価が適当でないと認められるものとそれ以外のものとに二分し、前者については相続人全員の相続分による共有とし、後者については競売に付しその売却代金を相続分に応じて分配すべきであるとした。

しかしながら、原審判の右判断は是認することができない。すなわち、遺産分割の方法として、現物分割が困難な場合等、特別の事情がある場合には、共有とする分割方法も許されるとしても、本件にあっては相続人間で利害や意見の対立があり、遺産の管理についても管理人が選任されるなど相続人間の協調が期待し難い状況にある上、遺産のうちの個々の具体的な物件についてみれば、現に居住等していてその物件につき現実に深い利害関係を有する者とそうでない者があることは明らかであるから、こうした事情を十分審理してできる限り適切な分割方法を定めるよう努めるべきであるといわなければならない。単純に相続分に応じた共有とすることは一見公平なようではあるが、もともと相続人らは遺産については相続分に応じた持分を有することは当然のことであって、このことを前提として具体的な分割を求めているのであるから、相続分に応じた共有と定めるだけでは何ら根本的な解決にならないばかりか、相続人らの間で改めて共有物分割という課題を残し、しかもその際には共有者間において現実に物件を使用し収益を得た者とそうでない者との間で精算をめぐって新たな問題が生じ、いたずらに問題を複雑にすることにもなりかねない。要するに問題の解決を先送りにするだけとの非難を免れないものである。また競売による換価にしても、その大半の地目が田畑である関係上、すぐ買受人が見つかるかどうか不安がある等、決して望ましい分割方法とはいえない上、競売を主張する相続人の間には、相続人のうち希望する者が買受人となればよいとの意見もあることは、他方において将来買受を希望する相続人にその物件を分与する方法も考慮しうることを示唆しているということもできる。相続人らが早期解決を希望しながら、十分な協力をしないという事情があったとしても、そのこと自体は、分割方法を定めるに当って協力が十分でない者の希望が容れられないという結果になるのは別として、原審判のような安易な分割の定めを許す事由と解することはできない。

本件においては、具体的事情を更に審理し、前記遺産との利害関係をも比較考慮して判断すれば、個々の遺産を特定の相続人に分与し、或いは数個の物件を数人の共通する利害関係を有する相続人に分与する等の根本的かつ具体的な分割の方法も十分考えられるはずであり、このような配慮を一切していない原審判は相当でない。本件抗告は理由があり、なお審理を尽くさせる必要があるといわなければならない。

三以上のとおりであるから、原審判を取り消し、なお審理を尽くさせるため本件を千葉家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官上谷清 裁判官滿田明彦 裁判官亀川清長)

別紙抗告理由書

第一、原審判に対する不服の要点

一、原審判は、被相続人の遺産について当事者各人の意見にもとづき、現物での分割を希望する意見のある物件についてはすべて相続人全員の共有とし、その意見のない物件についてはすべて競売に付しその賣得金を分割すべきものとした。

しかし、これでは現物での分割の対象である物件について、現に使用する者は将来も占有使用を継続することとなり、現実にこれを占有使用しない者は競売物件の賣得金の分配に与るのみで直接の現物の使用収益からは除外されることになる。もっともこの場合、相続財産の一部について全員の共有のまま現実にこれを使用収益する者は、不当利得として他の相続人に対しその利得分を償還すべきことになるが、実際には一々その請求手続きを採ることは不便でもあり困難でもある。

二、抗告人としては、右のような事態に陥ることを危惧し、相続財産全部を一括競売して換価しこれを各人に分割する案を最も妥当と考えたが、原審の採るところとならなかった。しかし、原審の分割方法では、右に述べたような不当利得関係を生じ、相続人相互の間でその解消が現実にはかなり困難であることも明らかである。そこで、特定の相続人が特定物件について特に関係が深く将来もその占有使用が継続すると考えられるような場合は、その物件を当該相続人の取得すべきものとし、他の物件の競売による配分額からその物件の価額相当分を減じて清算させるのが至当であろう。このようにすれば、競賣による賣得金分配の際に、先に述べた不当利得関係の解消が計られることとなって、その清算が簡易明瞭となるからである。

三、原審判は、その主文に示す分割をなすべき理由として次のようにいう。

当事者の意見としては

1、甲野一郎(抗告人)、甲野六郎、甲野花子、丙野太郎は原審判書遺産目録第1の30を除き競売して代金を分配する。

2、甲野二郎は競売に反対し現物での相続を希望

3、丁野秋子は競売を希望(ただし同人が使用中の土地は近い将来道路として買収される予定なので除く)。であるとした上で「本件遺産のうち競売による換価が適当でないと認められるものを抽出してみると次のとおりとなる」という。

①、目録第1の1ないし10の土地

賃貸中の物件で大部分道路建設予定地であるから

②、目録第1の11の土地

甲野二郎が単独使用しているから

③、目録第1の18、19の土地

亡甲野九郎、亡甲野八郎、丁野次郎(同人は死亡してはいない)名義の建物が存在し、丁野秋子と甲野七郎が使用中であるから

④、目録第1の30の土地

事実上持分を各人が売却済(甲野二郎を除く)であるから

四、右原審判の示す理由のうち

1、④については、事実上二郎を除く全員が合意の上持分を処分したものであるから、競売の対象から除くことに異議はない。

2、①、③については、かって道路予定地とされたが現在ではその計画は見直され近く道路が建設される予定はない。また、①が賃貸中であり、②および③を一部の者が使用中であるからといってこれを共有のまま残すことは、不当利得等複雑な関係を生じ紛争を後に残すこととなって好ましくないというべきである。

第二、抗告人の分割案

一、抗告人としては、全遺産を競売に付し賣得金を相続分に応じ分配する分割方法が最も公平、簡明なものと考えたが、一部不動産をもって現実の分割を受けたい意見を容れるとすれば、不当利得関係等の複雑な関係を残さないため、むしろ全遺産について次の方法で分割するのが妥当なものと考える。

1、相続人を次のグループに分ける。

Aグループ 甲野一郎、甲野六郎、甲野花子、甲野四郎、甲野春子、甲野五郎

Bグループ 甲野二郎、甲野七郎、丁野秋子、丙野太郎

2、相続財産を左のグループに分ける。

①目録第1の1ないし10

②  〃  11

③  〃  12ないし16および23

④  〃  17ないし22

⑤  〃  24ないし29

⑥  〃  30

3、右物件中⑥は甲野二郎以外の者は持分を事実上売却済であるので同人が残りの持分を当然取得する。②も同人に取得させる。

③および④の土地はBグループの者が取得し、内部的に共有ないし現物で分割する。遺産管理者の意向にかかわりなく、④に属する土地上の甲野九郎名義の家屋は甲野七郎が独占的に使用し、丁野次郎が建築した建物は既に取り壊して七郎名義で建物を建築し秋子と七郎が使用している(別紙略図のとおり)。

①および⑤の物件はAグループの者が取得し、内部的に共有ないし現物で分割する。

4、右のように分割する場合の主たる利点は、A、B両グループに分けると夫々のグループ内では比較的人間関係がまとまり易いこと、原審判の分割方法を採る場合に比べて将来に紛争を残すおそれが少なく不当利得等の複雑な関係を回避し易いこと、両グループ夫々に対する分割の対象物件を評価した場合各相続人の取得分の価額がほぼ等しく公平簡明であることなどである。

二、①ないし⑤の物件の概ねの価格は次のとおりである。

① 3.3平方メートル当り三〇万円(賃借権割合差引)

二二、六五九万円

② 3.3平方メートル当り八〇万円

八四八万円

③ 3.3平方メートル当り二五万円

一〇、〇二七万円

④ 3.3平方メートル当り八〇万円

三九、八〇八万円

⑤ 3.3平方メートル当り二〇万円

一四、〇九二万円

右を前提とすると、Aグループの取得する①と⑤の価格の合計は三六、七五一万円(その三分の一は一二、二五〇万円)、Bグループの取得する②、③、④の価格の合計は五〇、六八三万円(その四分の一は一二、六七〇万円)となって、各相続人の取得価格は持分比に概ね等しい(⑥の物件に対しては七分の一の持分を甲野二郎が取得することは当然、同人以外は既に各七分の一の持分を売却済みであるから)。

従って、右分割案は、最も現実的であって、紛争を先送りするおそれも少なく、簡易公平なものと考えられる。この案に従って本件遺産の分割がなされるよう本件を原審に差戻されたく右のとおり意見を陳述します。

別紙図面<省略>

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